数日前、生活保護世帯に上乗せ支給されていた母子加算の満額復活が閣議決定したという記事を目にした(記事は末尾)。東京都足立区の女性(50)は「高校1年の息子が来春の修学旅行に行ける」と語ったという。修学旅行を断念せざるをえないほどの生活苦を自民党政権は強いてきたわけだ。
修学旅行で思い出すのは、矢口高雄の漫画『蛍雪時代』の第10話「思い出づくり」である。何度読み返しても泣ける名作。
『蛍雪時代』は矢口氏の中学時代を回顧する漫画。戦後まもなくの秋田県の山村の中学校が舞台で、生徒たちの家はほとんどが農家だ。学校が終れば農作業を手伝う毎日。高校への進学は珍しい時代。
だからこそ皆、中学校生活への思いは強い。ホームルームでは活発な議論がなされ、文化祭や運動会も自分たちの創意工夫で築き上げていく。教師たちは生徒の自発性を伸ばそうと温かく見守っている。暗い戦争の時代が終わり、戦後民主主義教育が希望に輝いていた時代なのかもしれない。あの幻の名文、「あたらしい憲法のはなし」が学校で読まれていたのも、この頃ではないだろうか。
第10話「思い出づくり」は、修学旅行の話だ。中学校生活の、否、ほとんどの生徒にとっては生涯最後になるであろう修学旅行は、格別の思いがあるわけだ。ましてや秋田県の山村の子らにとって、大都会・東京へ行く修学旅行は夢のようであった。
しかし、クラスメイトには何人か「長欠者」がいた。「長欠者」というのは家が貧しいために、長いこと登校できない状態にある生徒のこと。子どもでも農作業の手伝いをしなければ、一家がやっていけないのだった。
矢口たちは、長欠者たちも修学旅行に一緒に連れて行こうと、クラス一丸となって石運びなどのアルバイトに精を出す。そうして費用を捻出し、みんな揃って修学旅行に行けることになった。動物園、国会議事堂、浅草、二重橋、六大学野球観戦、旅館のテレビ・・・東京見物は夢のような旅だった。
帰ってきて旅の思い出を文集にまとめることになった。皆の原稿が集まって目を通してみると、なんとほとんどが同じ内容だったのである。東京見物についてよりも、石運びのアルバイトのことについて書かれていた。みんなで汗を流したことが、一番印象深かったというわけだ。
漫画は最後にこう締めくくられる。
「その目的が達成されたうれしさはだれに胸にも終生忘れ得ぬ想い出として刻みこまれたのでした」
「長欠者はこの修学旅行を契機に精力的に登校するようになり全員そろって卒業を迎えました。そしてその卒業式でもっとも多くの涙を流したのは彼らだったように思います」。
立場の弱い人を「見捨てる」「置き去りにする」「あきらめる」のではなく、みんなで力を合わせて助けることによって、「人を信じる」「自分たちで状況を変えて行く」という展開が生まれてくる。
そして現代。
金銭的事情で修学旅行に行けない子どもがいるなんて日本では昔の話かと思ったが、自民党政治の愚策による格差社会はすでにここまで進行していたのかと思う。
今回の母子加算の復活によって、子どもが修学旅行に行けるようになれば、その子はきっと「人を信じる」「自分たちで状況(政治を含め)を変えて行く」ことに可能性を感じるのではないかと思う。それこそが教育ではないか。
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毎日新聞より転載
母子加算:復活に「ほっ」と 「修学旅行に行ける」
一人親の生活保護受給世帯に上乗せ支給されていた母子加算の満額復活が23日午前、閣議決定した。05年度から段階的に削減、今春全廃されたが、12月から再び支給される。政府内の折衝が難航、見通しが危ぶまれた時期もあっただけに、暮らしを切り詰めてきた各地の親たちは、胸をなで下ろしている。
「やっと戻るんですねえ」。体調を崩したのをきっかけに3年半前から生活保護を受給する札幌市の菊地繭美さん(46)は、ほっとした様子。07年4月、息子の高校入学と同時に月額約2万3000円の母子加算が打ち切られた。入浴回数を減らしたり、衣服も数カ月に1度しか買ってやれなくなった。
「廃止は生存権を侵害する」として、自治体を相手取って提訴。今年4月以降、母子加算復活を目指す民主党の会合にも参加し、窮状を訴え続けた。「復活したら、息子とおすしを食べたい。ずっと食費も削ってきたから」と話すものの、息子が来年3月に高校を卒業すれば、母子加算の対象から外れる。
東京都足立区の女性(50)は「高校1年の息子が来春の修学旅行に行ける」。月額2万3000円の母子加算が削られた後は、食事の回数やおかずを減らし、「食べ盛りの息子が食べない私に遠慮するのがつらかった」。20代から病気を患い、フルタイムの仕事は難しいが、来春早々にある息子の修学旅行の積立金も確実に捻出(ねんしゅつ)できそうだ。
女性の息子は高校卒業後、1人暮らしをする可能性もあるといい、「自立のための準備のお金が全くなかったが、復活で最低限の蓄えができるかもしれない」と期待する。
厚生労働省は、財務省との折衝で、母子家庭以外の保護世帯にも支給されてきた高校生向け就学費などが、母子加算復活と引き換えに廃止されることも求められた。【佐藤浩、野倉恵】
修学旅行で思い出すのは、矢口高雄の漫画『蛍雪時代』の第10話「思い出づくり」である。何度読み返しても泣ける名作。
『蛍雪時代』は矢口氏の中学時代を回顧する漫画。戦後まもなくの秋田県の山村の中学校が舞台で、生徒たちの家はほとんどが農家だ。学校が終れば農作業を手伝う毎日。高校への進学は珍しい時代。
だからこそ皆、中学校生活への思いは強い。ホームルームでは活発な議論がなされ、文化祭や運動会も自分たちの創意工夫で築き上げていく。教師たちは生徒の自発性を伸ばそうと温かく見守っている。暗い戦争の時代が終わり、戦後民主主義教育が希望に輝いていた時代なのかもしれない。あの幻の名文、「あたらしい憲法のはなし」が学校で読まれていたのも、この頃ではないだろうか。
第10話「思い出づくり」は、修学旅行の話だ。中学校生活の、否、ほとんどの生徒にとっては生涯最後になるであろう修学旅行は、格別の思いがあるわけだ。ましてや秋田県の山村の子らにとって、大都会・東京へ行く修学旅行は夢のようであった。
しかし、クラスメイトには何人か「長欠者」がいた。「長欠者」というのは家が貧しいために、長いこと登校できない状態にある生徒のこと。子どもでも農作業の手伝いをしなければ、一家がやっていけないのだった。
矢口たちは、長欠者たちも修学旅行に一緒に連れて行こうと、クラス一丸となって石運びなどのアルバイトに精を出す。そうして費用を捻出し、みんな揃って修学旅行に行けることになった。動物園、国会議事堂、浅草、二重橋、六大学野球観戦、旅館のテレビ・・・東京見物は夢のような旅だった。
帰ってきて旅の思い出を文集にまとめることになった。皆の原稿が集まって目を通してみると、なんとほとんどが同じ内容だったのである。東京見物についてよりも、石運びのアルバイトのことについて書かれていた。みんなで汗を流したことが、一番印象深かったというわけだ。
漫画は最後にこう締めくくられる。
「その目的が達成されたうれしさはだれに胸にも終生忘れ得ぬ想い出として刻みこまれたのでした」
「長欠者はこの修学旅行を契機に精力的に登校するようになり全員そろって卒業を迎えました。そしてその卒業式でもっとも多くの涙を流したのは彼らだったように思います」。
立場の弱い人を「見捨てる」「置き去りにする」「あきらめる」のではなく、みんなで力を合わせて助けることによって、「人を信じる」「自分たちで状況を変えて行く」という展開が生まれてくる。
そして現代。
金銭的事情で修学旅行に行けない子どもがいるなんて日本では昔の話かと思ったが、自民党政治の愚策による格差社会はすでにここまで進行していたのかと思う。
今回の母子加算の復活によって、子どもが修学旅行に行けるようになれば、その子はきっと「人を信じる」「自分たちで状況(政治を含め)を変えて行く」ことに可能性を感じるのではないかと思う。それこそが教育ではないか。
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毎日新聞より転載
母子加算:復活に「ほっ」と 「修学旅行に行ける」
一人親の生活保護受給世帯に上乗せ支給されていた母子加算の満額復活が23日午前、閣議決定した。05年度から段階的に削減、今春全廃されたが、12月から再び支給される。政府内の折衝が難航、見通しが危ぶまれた時期もあっただけに、暮らしを切り詰めてきた各地の親たちは、胸をなで下ろしている。
「やっと戻るんですねえ」。体調を崩したのをきっかけに3年半前から生活保護を受給する札幌市の菊地繭美さん(46)は、ほっとした様子。07年4月、息子の高校入学と同時に月額約2万3000円の母子加算が打ち切られた。入浴回数を減らしたり、衣服も数カ月に1度しか買ってやれなくなった。
「廃止は生存権を侵害する」として、自治体を相手取って提訴。今年4月以降、母子加算復活を目指す民主党の会合にも参加し、窮状を訴え続けた。「復活したら、息子とおすしを食べたい。ずっと食費も削ってきたから」と話すものの、息子が来年3月に高校を卒業すれば、母子加算の対象から外れる。
東京都足立区の女性(50)は「高校1年の息子が来春の修学旅行に行ける」。月額2万3000円の母子加算が削られた後は、食事の回数やおかずを減らし、「食べ盛りの息子が食べない私に遠慮するのがつらかった」。20代から病気を患い、フルタイムの仕事は難しいが、来春早々にある息子の修学旅行の積立金も確実に捻出(ねんしゅつ)できそうだ。
女性の息子は高校卒業後、1人暮らしをする可能性もあるといい、「自立のための準備のお金が全くなかったが、復活で最低限の蓄えができるかもしれない」と期待する。
厚生労働省は、財務省との折衝で、母子家庭以外の保護世帯にも支給されてきた高校生向け就学費などが、母子加算復活と引き換えに廃止されることも求められた。【佐藤浩、野倉恵】
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